ある「住居侵入事件」~女性のお風呂場の「覗き」〜無罪 第2回

    ある「住居侵入事件」~女性のお風呂場の「覗き」(正式起訴から第1審公判)
昨日の続きです。
昨日は、タクシー会社に勤めていた、ある男性が「住居侵入事件」で逮捕され略式起訴されたのち、不服で正式裁判を申し立て、東京都内のある簡易裁判所に起訴された、というところまで書きました。

 

    この「事件」の起訴状の内容は、「被告人は、ある夏の深夜、二階建てのアパートのある部屋に電気がついていて、お風呂場に人影があったのをみて、住民が使う外階段から二階に上がり外側の廊下からその部屋のお風呂場を覗いた」というものです。罪名としては「住居侵入罪」(刑法130条)です。

 

    この事案では、検察官は、「その男性がその時間にアパートの外階段から二階に上がって、不法に外廊下を歩いた」ということを主張・立証すべきことになります。
    他方、被告人の男性としては、「自分はそこに行ってない」というのですから、検察官の主張、警察の捜査資料が間違っているという主張をすることになります。


   この「事件」では、深夜被告人がアパートに立ち入ったことを見ている人はいません。ですから証拠としては、「被害者」の女性の「目撃証言」と被告人にされた男性(タクシー会社の労働者)の「自白」だけです。そして争点は被害女性の目撃証言の調書、証言の信ぴょう性と男性の自白の信用性及び証拠能力の有無です。


    被害女性の目撃証言については、所轄警察署で供述が取られています。「30歳代の男性が自分のお風呂場の前で立ち止まって覗いていた」という内容です。
深夜女性は帰宅してお風呂がの電気をつけお湯を湯船に張っていました。そこを覗かれたというのです。


    このアパートのお風呂場には目隠しのボードがついていました。ですから、もし覗くならば、目隠しの上に目が出なければ目的は達成できません。ところがその「犯人」にされた男性は身長が低くのぞくには台が必要でした。また、その女性が「のぞき犯人」の顔をお風呂場から確認するには、その男性の位置が下すぎて見えないのです。ここがポイントです。被害女性は実は、「犯人の顔」を見ていないのです。しかし警察で面通しをしたときに、「犯人はこの人です」と言っているのです。
見ていない「犯人の顔」を見たといい、その人がのぞきの犯人だと述べ供述証拠として書面になっていました。

 

    少しテクニカル的なことですが、被告人・弁護側は「被害女性」の供述書の内容は違っている、誤認逮捕だと考えていたのでその女性の供述書面については、裁判で使うことに「同意」しませんでした。したがって、被害女性は公判廷に証人として呼ばれ証言しました。また女性のアパートの構造がどうなっているのか、本当に男性がのぞけるのか、確認するために現場を裁判所が「検証」しました。また公判廷で男性の身長が計測されました。
    このようなことは、珍しいことです。現在の刑事裁判は多くは、書面中心で片づけられます。ですから裁判官が犯罪現場を見分するのは珍しいケースです。このように刑事裁判が機能したのはいくつかの理由があります。
    もちろん被告人の気持ちの中に「自分はのぞいてないのに『覗き犯』・『犯罪者』にされたくない」という気持ちがあったからです。
    しかしそれにも増して、彼を支えたタクシー会社の労働組合の委員長、仲間、その地域の、ある書店の経営者、「時間有給休暇」をとり、彼を支え公判になるとタクシー会社の仲間が傍聴に駆け付け、いつも傍聴席は満席近くになっていたからです。ですから裁判所の軽々な判断はできないと思っていたからでしょう。
    さらにこの事件が簡易裁判所で審理されたということも見逃せません。簡易裁判所は以前、各地域にあり、ほとんどの簡易裁判所の裁判官は司法試験を受かったキャリアとは違うので、庶民の気持ちを聞く気が強かったといえます。(続く)