「少年老い易く学成り難し」について

 「少年老い易く学成り難し」という諺がある。

  このことわざは一般に次のように理解されている。

  若いうちはまだ先があると思って必死で勉強をしないが年月はすぐに経ち歳をとり何も学べないうちに人生は終わってしまう、だから若いうちに勉学に励むべきだ。

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引用;  偶成 - 中国の漢詩 - 漢詩・詩歌紹介 - [学ぶ] - 関西吟詩文化協会

このことわざの由来は朱子の『偶成』という中にある漢詩であると言われている。

  しかしこの漢詩朱子の『偶成』の中に見つからないようだ。またこの漢詩の内容は朱子の思想と異なっているそうだ。だから朱子の作ではないのではないか、と近時解されるようになっている。

  早稲田大学教授柳瀬喜代志(故人)や岩山泰三(早稲田一文、博士)らは、「少年老い易く学成り難し」の漢詩朱子の『偶成』から取られたという従来の見解に対して、それは誤りだと実証的に主張している。

  またこの点に関して公共図書館レファレンスで調査されている記録がある。埼玉県立久喜図書館のレファレンスだ。これは浅田次郎の小説の中に「少年老い易く学成り難し」という漢詩が引かれ、それが朱子の『偶成』が出典である、という記述があるが果たして本当かという疑問から利用者が問い合わせ図書館がレファレンスサービスで答えている。その回答においても出典が朱子の作品(漢詩)だと確定できないとしている。

 

では仮に朱子漢詩でないとしたら上記の漢詩は誰の作品か、また誰がこれを朱子の『偶成』の中にある作品であると伝えたのか、さらにそのように伝えた意図は何か。

  柳瀬の説によると、題の「小人」は「年若い僧」を意味し、起句の「少年」は「寺院にあずけられた俗人の子弟、あるいは幼少にして出家し僧を目指している男児」であると共に、僧侶の性愛の対象である稚児の意をも含んでいる。それ故この詩は、年若い僧に対して「君の稚児さんは老け易いが、君の学業成就は難しい」、だから男色と学問とにその若い時を惜しんで過ごしなさいと勧める詩意を成す滑稽詩だという。

 

 柳瀬喜代志は更に次の様に推定する。以下wikipedia の記述などから引用する。

「これ(少年老い易く学成り難し)が朱熹(朱子)の作品として登場するのは、明治時代の日本の漢文教科書からである。

  まず、明治34年(1901年)の宮本正貫編『中学漢文読本』(文学社)に「七絶 朱熹」、同年の国語漢文同志会編『中学漢文読本』(六盟館)には「逸題 朱熹」として収録されている。

その後の漢文教科書にも朱熹作として収録されているが、題は「詩」「少年易老」などとなっていることがある。

  明治38年(1905年)の国語漢文研究会編『新編漢文教科書』(明治書院)に「偶成 朱熹」として掲載され、以後の多くの教科書もそれを踏襲するようになった。

  この時期は明治政府によって学校教育の拡大施策が行われており、そのために適当な教材を求めていた教科書編纂者がこの詩を朱熹作の勧学詩と見立てて採択した(のではない)か」(引用につき、最後のカッコは引用者が入れた、行替えして読みやすくした。6月25日に最終閲覧した)

 

私は教育史について知らないし現時点で手元に適切な文献もないので一般的な意見しかいえない。

  ただつぎの様に考えられないか。この「少年老い易く学成り難し」がこれほどまで日本人に広がっているのは明治期のイデオロギー政策の「成果」結果ではないか、

  ⑴  明治期の日本では藩閥政府の下で富国強兵政策がとられていた。下級士族を資本主義社会の中に取り込み、農民層を労働者階級に再編成し同時に低賃金の「沈め石」(マルクス)としつつ、日本社会を再編成し、他方台湾朝鮮中国ロシアを侵略し欧米諸国の侵略に競争対抗する基盤を作るのが、当時の国家目標だったと理解される。このように国民国家を形成し帝国主義的拡大の過程で、「少年老い易く」の漢詩は、当時の文部官僚が特に中等教育で人びと特に落ちぶれ士族の子弟や地方の旧庄屋などの旧来の支配的勢力によびかけたイデオロギーだと理解出来ないか。また福澤諭吉の『学問の勧め』の路線にも合致するし初代文部大臣森有礼の方向性とも合致するのではないか。だから上記の漢詩は当時の文部官僚が内外の情勢に合致するように当時の(中等)学校教育に取り込み人口に膾炙するようになったと言えないだろうか。

  ⑵ 私自身この分野の「俄か」だし、私自身の研究でない。意見は実証的根拠を欠いている。よって私の主張の当否はなんとも言えない。ただ上記の明治期のイデオロギー(文教)政策の文脈の中で考えることはできるだろうしそれが重要だと思う。実証研究の進展を心から期待している。

(追記)

  この「少年老い易く学成り難し」の由来についてはネット上で検索すると出てくる。上述の様に争いがある。2105文字 。0626/1330。/約60字削除修正0712。